頂き物 「 SnowscapE 」 アオ様より






雪はいつか溶けて柔らかい水となる。
あなたの雪もいつかは解けて流れはじめるのだろうか。





SnowscapE




フィリアは白い寝具の上に鳶色の外套を羽織った姿で佇んでいた。
腕の中には青い格子柄のブランケットにくるまれたヴァルの卵。
一晩中降り続いた雪は世界を白に変貌させていた。
低い日差しは木々の細い影を雪の上に這わせている。




サクッ。



背後で足音が止まると同時に聞き慣れた声がした。
「そんな所にずっと立っていると眠くなりませんか?」
フィリアは振り返りもせずに呟いた。
「雪は、嫌いです。」



バサバサバサバサッ。



「それ、答えになってませんよ。」
背後にあったはずの声は、木の上から雪とともに落ちてきた。
「僕も雪は嫌いですけどね。」
フィリアは意外なセリフに思わず木を仰いだ。
「真っ白で。神々しくて。全てを光に暴け出して。闇夜は無くなるし。」
木の一番太い枝には、いつもの神官服を纏ったいつもの男がいつもの笑みを浮かべていた。
「それは逆です。雪は美しいモノも醜いモノも何もかも全てを覆い隠してしまうんです。」


フィリアの眼には別の雪景色が映っていた。
あの数百にもおよぶ竜の骸骨が眠る雪の大地。


そんなフィリアの思考を遮るように、呑気な声がまた落ちてきた。
「部屋に戻らないんですか? ヴァルガーヴさんが凍傷になっちゃいますよ。」
そうだった。
あの男はこれが気懸かりなのだ。
フィリアはブランケットに包まれたヴァルの卵を愛しそうに頬擦りした。
「心配は無用です。彼は私がしっかりと抱いてますから。」



ドサッ。



フィリアの目の前に黒い影が降ってきた。
「ま、どうだっていいんですけどねぇ。」
男は紅い宝玉が填まったバックルを外すと、自分の腕の中にフィリアを引き寄せてマントで覆った。
「ゼ、ゼロスっ! 何を……。」
「やっぱり。こんなヒエヒエになっちゃって。」

フィリアはゼロスの胸から逃れようと抵抗を試みたが、卵を抱いているのでいつもの力が発揮できない――――――せいぜい悪口雑言をぶつけるぐらいしか為す術が無かった。
「ゴキブリっ。生ゴミっ。魔族のくせにぃぃぃっ。」
「はいはい。」
「放しなさーーーーーいっ!!!」

ゼロスは嫌悪感を全開にして怒鳴るフィリアを見下ろした。
怒りを露にした青い光彩は真っ直ぐに自分を貫いている。
その頬は上気して薄っすらと薔薇色に染まっていた。
「部屋に戻らないとずっとこのままですよ?」
「帰ります。」

フィリアは澱みのない足取りで家の方へ向かって歩きはじめた。
ゼロスはその様子に苦笑しながらも、フィリアの背後から包み込むようにマントを羽織らせるとバックルの留め金を閉じた。
「それ、貸してあげます。今度会った時に返して下さい。」


黄金色の髪が円を描くように揺れた。
振り向いたフィリアの頬は前にも増して上気している。
すでにゼロスの姿はそこには無く。
朝日に照らされた木々の枝先からパタパタと落ちる水滴が
雪景色を和らげているだけだった。





The enD.




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