【第14話・横行闊歩!終わりなき慟哭!】を妄想補完




無傷生還


最早、打つ手はない。
諦めるように言ったアルメイスの絶望に抗い、今まさに重破斬(ギガ・スレイブ)を完成させようとしているリナ=インバースの前に、何の前触れもなく降臨した光の塊。
集中を削がれた母なる術は、人型の輪郭を持った輝きによって退けられた。
その数、目視可能な範囲に二対。
単なる人のそれではない事は明らか。
突如参戦した謎の物体に困惑だけが場を染めるが、アルメイスとゼロスだけは趨勢に呼応を張る。
アルメイスは光の正体が仲間であると知り、この世界には馴染まない輪郭を感じたゼロスもまた、あれが異質の者であると悟っていた。
二対の光塊は手に握る存在──まさにこの闘いの核ともいえる本流を備えし武器、毒牙爪(ネザード)と破神槌(ボーディガー)を奮い、開かれんとするゲートを強制的に閉じに掛かった。
ゲートの奥に押し戻されんとするダークスターが非難の音を上げるも、次元と大気の収束が示すのは成功の印。
窮境は、避けられた。

アルメイスとゼロスが視線を直錯させた。
このゲート処置が終わった後の零コンマ一秒後には押さえ切れなかった暴走が爆ぜてしまうだろう、それだけは誰にも防ぐ事は出来ない。
それをアルメイスも分かっているらしく、矢継ぎ早に防御結界を展開させていた。
スピードはまさに神速に値し、何とも丁寧なその結界は、場にいる人間達全員にも恩恵をもたらせる創りで具現されているようだ。
人間の目では捉えらないであろう呪がリナ達を包み込んでいる。
約一名が結界の枠から外されたのは、黄金竜の彼女が交わす術を持ち合わせていると判断されたに違いない。
神に敬意をはらうアルメイスの判断、魔力比から考えれば適切だとも言えるだろうか。
けれど、ヴァルガーヴと失った事と瞬撃槍(ラグド・メゼギス)によって自らの手でゲートを開いてしまったショックから立ち直れていない彼女にそんな適切な判断を求めてはいけない。

 「仕方ありません。貴女は僕が面倒をみましょうか」

面倒気に、どこか当たり前の如く、ゼロスが動いた。
断絶的に続く巨音と突風のせいで、フィリアにはその声さえも、ましてや彼の姿を見咎める事も出来てはないない。
ゼロスはそれを知っているからこそ、自ずと上がる口端を押さえなかった。
至極簡易な、それでも深みを乗せた裏で考える。
仮に彼女が普通の状態だったとしても、どうせこうなっていただろうと容易に想像が付いていた。
彼女の前に立つという価値の無い気紛れ、これを厭わなくなったのはいつ頃からだっただろうか。




眼前は蒼夜に取り込まれ始めた。
満ち満ちた異質の圧迫が解放を求めて降り注ぐ。
刺し吹く破壊が爆ぜるその時、音よりも早く迫った暴発の波に対して、紫黒の術を従わせたゼロスが対峙する。
闇と黒の出合いが、似て非なる拮抗が、周囲の形を変えようと飛び狂う。

激突。衝撃。相殺。激突。衝撃。相殺。激突。衝撃。相殺。激突。衝撃。相殺。
衝撃。激突。相殺。衝撃。激突。相殺。衝撃。激突。相殺。
激突。衝撃。相殺。激突。衝撃。相殺。
衝撃。激突。相殺。

互角。
しかし、渦の中心に立つゼロスの細く開かれた眼差が、幾重にも重なった紗を射る。
対抗に叶うはずの剛を与え、更に念押しとばかりに練りに練った防御壁が亀裂に侵されていく。
ダメージを負うレベルでは無いが、予想よりも早い。
そう、懸念は確かにあった。
相手は魔王と呼ばれる存在 ─── 己の魔力が果たして釣り合えるのかどうか。
こちらはアルメイスと違い、相手の力の流れを曖昧にしか認知していない。
どのような理に準じ、紡がれ、放たれているのか。
強固な防御壁も、それらと噛み合わなければ。

激突。衝撃。分散。
衝撃。激突。
衝撃。
衝撃。分散。
激突。
衝撃。
崩壊。

─── 轟爆の予覚。

ゼロスの苦笑。
同時に景色が吹き散った。
ここから先は彼にも読めない。

 「ご無事で」

ありったけの守護を猛けらせた術をフィリアに乗せてゼロスは言った。
この世に生み出されてから初めて経験する、願いにも近い四文字だった。





















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