● ● ● 今日も今日とてキャプテンです ● ● ●
こんな時、あたし池田華菜はしみじみと痛烈に思うのだった。
「風越が女子校で良かったし…」
キャプテンはお人好し過ぎます!
何の変哲もない日曜日。キャプテンと待ち合わせをしていたあたしの第一声だった。
常日頃から尊敬しては密かに好意を寄せているキャプテンに対して挨拶を忘れたのはこれが初めてで、荒げたような声を向けてしまったのも、今回が初めてのことだ。
「でもね、華菜。私は道案内をしようと」
雑用品の買い出しをすると言ったキャプテンにあたしはあらん限りの勢いで手伝いを申し出ていた。
悪いと断るキャプテンを情熱の赴くままに説得し、何とか当日を迎えたまでは良かったのだが…
あたしが到着する前から事件は起きていた。
「あんなニヤニヤした男三人に囲まれてですか!」
待ち合わせ場所が遠巻きに見え始めたのも束の間、ああキャプテン今日も早いなとか、たまにはコッチを待たせてくれても良いのにだとか、でもさすがだなとかを考えていたあたしのお気楽思考は一気にそこへと集束する。
大の男数人に囲まれ”道を聞かれている”らしいキャプテンの元へ。
確かに男達は表通りに出る為の順路を尋ねているが、道なんて、そんなことは本心から聞いちゃないということが一発で知れた。
身振りまで付けた丁寧な説明をしてくれているキャプテンを見る男達は、顔付きも雰囲気も、何から何に至るまで邪で、舐め回すように這わせている視線は不快の一言だ。
単刀直入に言って、キャプテンを狙っている。
それも下心満載。
最悪だ。
「普通に道に困ってる人は肩に手を回したりしませんし、むやみやたらに路地裏に連れて行こうとしませんからっ」
一人の男が壁際にキャプテンを追い詰め始めた瞬間、あたしの足は勝手に走り出していた。
男達とキャプテンの間に入り、その場にある空気全部を睨み付けてやる。
向こう側からすれば突然の乱入者だったことだろう。
困惑を呼んだ超本人であるあたしは、それに便乗してキャプテンの手を引いた。
強引な形ではあったものの、その場から脱出に成功、少し上がった息を吐きながら、つい「キャプテンはお人好し過ぎます!」という台詞が飛び出した。
「え?」
「え?…って、まさかキャプテン…」
「私はよく道を聞かれたりするんだけど、それは別に珍しいことでも。 …あ、でも狭い道は行かないようにしているのよ?危ないでしょ、自転車とか」
「違います、キャプテンのは危ないの意味が違います。ちなみに、道を聞かれるのって男の人ばかりだったりしませんか?」
「確かに男性が多いかも。華菜は?」
「ありません!というか普通は頻繁になんかありませんから!!危ないですから危険ですから!」
キャプテン、あたしは鋭いタイプの人間じゃないですけど…
それでもその男達の目的くらい分かりますよ。
毎回、そんな無防備に対応してるんですか。
今日あたしと待ち合わせていなかったら、どうしていたんですか。
「どういう風に危ないの?」
「そそ、それは…とにかく色々です!」
「??」
正直、役満に無警戒で振り込むより危ないです。
キャプテンのクエスチョンマークに心の中でそう答えながら、あたしは唸った。
両拳を握り締めながらのあたしの力説は残念ながらキャプテンに届いていない。
キャプテンの中にある筈の ”洞察力” や ”勘の良さ” はこういう時に何をしているんだろう。
麻雀の時以外には動く気がないのか、それとも、福路美穂子の根本的な優しさに負けてしまうのか。
…たぶん後者かな。
あたしはそんなキャプテンが好きだけど、いや大好きなんだけど、それだけ心配にも通じている。
麻雀も強くて、外見だって良くて、全部すっごく暖かくて…─── あーもう!
キャプテンはもう少し自分の魅力を理解するべきです。
「キャ、キャプテンはその…女のあたしからみても、かか可愛いし、綺麗なんですから、き、気を付けて下さい」
恥ずかしい台詞だと思い、自分の体温が上昇していくのが分かった。
でも、重ね重ね残念なことに、小さく首を傾げたキャプテンを見て、依然として言葉本来の意味は届いていないということも分かった。
そしてほら、あたしの心配も知らないで、ニコッと笑ってて。
「私なんかより、華菜の方がずっと可愛いわ」
あたしの小さな溜め息。
もう一押し説明しようと思ったけど、太陽のような朗らかさで言われてしまった以上は、反論なんかで水を差すのもとても勿体無いような気がした。
あたしはこのキャプテンの笑顔に勝てない。
ということは、この心配も届かなくて。
こんな時、あたしはしみじみと痛烈に思うのだった。
「風越が女子校で良かったし…」
「華菜?」
「い、いえ、何でもありません」
だけど、あたしはやっぱりそんな優しいキャプテンが好きだな。
● ● ● 小ネタ No,01 ● ● ●
|