貴女限定 <※R-18・大人向け>



11月13日について、福路美穂子から謝罪の連絡があったのは12日の夕暮れ時であった。
学校が放課後を迎えて数時間が経った頃、生徒議会の書類を捌いていた竹井久の集中を、鈍い音が途切れさせた。
音の方向に顔を向ける竹井。 ─── と、その拍子に首がポキリと鳴った。
どうやら目も疲れている。肩にも重みを感じる為、自分が考える以上に根を詰めていたらしい。
竹井は眉間をほぐしながら、抜群の間合いでブレイクタイムをくれた相手を手に取った。
ああ、と竹井が腑に落ちたような表情で指に掛けたものは、マナーに従い振動のみを伝えていた携帯電話だ。
着信は電話を示し、そのコールの先には [ 美穂子 ] の三文字がある。
それはつまり、イコール、恋人からの電話だ。

 「はい。もしもし」

そして、そんな恋人の返答 ─── 『もしもし』 という言葉が掠れていたから、竹井の理解は早い。

 「どうしたの美穂子。風邪?」

電話口の向こうで福路の咳が数度。
福路は酷く落ち込んだ様子で、崩れた体調のことを話した。
朝一で医者にもかかったが今も熱が下がらない。
約束をしている明日 ─── 11月13日─── 竹井久の誕生日を祝えそうにないのだと。

 「そんな泣きそうな声出さないの。了解よ。 でも大丈夫? ご家族の方はいるのよね?」

誕生日は残念だが、当然無茶して欲しい訳もない。
早く治って欲しいと思うだけだ。

 『…………だ、大丈夫です。食事もキチンととりました』
 「へえ……」

一つ目の質問には答えたのに、二つ目の質問はどこへやら。
分かりやすい福路の動揺を聞いた竹井は手元の書類群を片付け始める。
倒れたばかりの今日は辛いだろうからと、明日の見舞いを考えていたが、どうやらそれでは遅いらしい。

 「ねえ美穂子。念の為にもう一回聞くけど、誰かご家族の方はいるのよね?」

竹井は耳と肩で携帯を挟みながらトントンと書類を揃える。
取りこぼしがないか枚数を数えて、使っていたペンの蓋を閉めた。
目で窓の戸締りを確認する。
職員室に寄ってから学校を出るまでの時間を考える。

 『………その、全く動けない程ではありませんから問題は』
 「本当は?」
 『…………』

十数秒にいくつかの動作をこなした竹井であるが、その間も竹井の耳は福路の曖昧を捉えていた。
彼女の両親は仕事の都合で家を空ける事が多いと聞いたことがある。
朝は一人で病院に行き、きっと今も、一人で過ごしている。
彼女としてはこれ以上の迷惑を掛けたくないのだろうが、そうは問屋が卸さない。

 「行くわ。今から」

竹井が両サイドの髪を結わえた。
無論福路からは見えていないが、竹井が本気で動き出したことくらいは雰囲気で判じられる。

 『だッ駄目です。うつるかも知れませんし、家も離れていますし』
 「あら。この前に私が風邪を引いて一人だった時、誰かさんはどうしたのかしら」
 『……ど、どうしたんでしょうね』
 「私も同じように来ないほうがいいって伝えた筈だったんだけどねえ」

電話向こうの福路にも分かるように竹井がニヤリと笑う。
立場は今の逆であったけれど、似たようなやり取りが数ヶ月前にもあったのだ。
それに竹井とて風邪の経験は一度や二度ではない。
体調の悪い時に一人でいて良いことなど何一つないのだ。

 「私は美穂子が来てくれて助かったし、嬉しかったけど」
 「久……」

コホコホと咳をする福路の、観念するような一息が吐かれた。

 『…………ごめんなさい。本当は、少し』

竹井が椅子から立ち上がる。

 『本当は、少し、心細いです……』

福路が言い終わると、竹井は議会室を後にした。


■■■■■


ここ数日で急に冷えた風が木々を揺らす。
竹井が福路の家に着いた頃には夜の帳が下りていた。
指定の場所から鍵を拝借した竹井は静かに福路の部屋を訪れた。

 「何が大丈夫なんだか……」

内服薬の他に頓服薬を乗せた机が目に入り、竹井は眉をひそめた。
浅い息で眠る福路の横につく。
熱は高いようだった。汗も相当の量をかいている。もしかしたらあの電話をくれたことさえ、負荷を強いたのかも知れない。
会話を長引かせたのは悪かったと思いつつ、竹井は、早くよくなるようにと心で言って彼女の髪を梳く。
すると福路の苦しそうだった呼吸が安らいだように見えて、竹井は優しく口角を上げた。

 「冷蔵庫、借りるわね」

福路と短く額を合わせた竹井は買ってきた差し入れを手に台所へ向かう。
雑学に溢れる竹井らしく、福路家の冷蔵庫には病人筋の通った物が追加された。
某スポーツドリンクは点滴と同じ成分を持ち、バナナは果物の中でも最も栄養価の高いモノの一つ。それに、あまり知られてはいないが、卵・牛乳・砂糖がふんだんに用いられているプリンにも見逃せない程の栄養がある。病人に対する喉通りも見越せば、ゼリーも立派な病人食の一つだ。

 「よしっと。起きたら食べさせましょう」

冷蔵庫のドアを閉めた竹井が、テーブルの上に置かれている丸い何かを見た。
丁寧にラップが施されているそれに近付くと、空気が仄かに甘くなる。

 「ケーキのスポンジ……。朝作ったわね、美穂子」

ケーキは二日目の方が美味しくなるのだと、いつかの日に彼女本人が言っていたことを思い出す。
しっとりとして味がよく馴染むらしい。
だから必ず前日に作るのだと。
よく見ると [ HappyBirthday ] と描かれたチョコプレートも立て掛けてあり、雀牌を模した小さなマジパンも並んでいた。

 「全く……今日はそれどころじゃなかったでしょうに」

デートはお預けとなった誕生日だが、それでも多幸な日が約束されているようだった。


■■■■■


時刻が日付を変えようとする間際。
福路の額のタオルを取り替えながら、こうしてゆっくりと寄り添う時間は久しぶりだ、と竹井が考える。
恋人の病気は由々しき事態であるものの、少しだけ満足している。
竹井は生徒議会の業務で、福路は麻雀部のバックアップで、それぞれ忙しくしている事が多かった。
夏の議会業務を他役員に任せ切りになってしまった竹井は秋冬に尽力する心があり、福路は県下No,1を秘めるその腕で引退後も後輩達の対戦相手を引き受けていた。
二人の休みが重なることは少なく、会える日は限られていたのだ。
が、二人はそれらを望んで行なっていたし、それによる互いの多忙を了承していた。
忙しさ程度でどうなる訳もないという、惚れた弱みならぬ、惚れた強みだった。

 「……ひ……さ」
 「起きた?」

呼ばれて、竹井が福路を覗き込む。

 「寝言……」

竹井が柔らかく息を吐く。
福路の寝ているベッドに腰掛けて、新しいタオルで首筋の汗を拭ってやる。
─── と、福路の寝巻きに触れた竹井がその湿り気に気付く。
汗のせいだろう、服が冷えていると思われた。
辛いかも知れないが、一度着替えさせた方が賢明だ。

 「美穂子、起きれる?」

肩を揺らせば、ん、という、か細い福路の反応。
起きるのは難しそうだと見た竹井が、可能な限りの汗は除いてやろうと再びタオルをとる。
熱い肌に触れ、鎖骨部分を拭きながら、第一ボタンを外す。
喉元の開放感からか福路が身じろいで、そこで、竹井の手はピタリと止まる。
鼻腔をくすぐられた感覚は、仄かに甘いケーキの残り香と、身じろいだ動作に合わせて開放された彼女の匂い。
いつも清潔な香りを纏っている彼女とは少し違う、密度の高いそれに、竹井の中の何かが頭をもたげていた。
引かれる様に顔を上げると、全てが乱れがちな福路の姿。
白い肌も赤がちで、身体は苦しげに脱力している。

 「……これは」

マズイわね、と竹井は浮上する ”よくない意識” を認めた。
苦笑する。じっくりと見てはいけなかった。気遣いであっても肌に触れてはいけなかった。
彼女は病人だと言い聞かせながらも、先の多幸さと寄り添える時間が手伝い、余計に愛おしいと感じるのだ。
そして、目端でとらえる時計が零時を回り、13日を、自分の誕生日の到来を告げる。
その日にそれ程のこだわりは持っていないのに、竹井はカチカチと進む時計の音を聞きながら 「誕生日か」 と思う。
誕生日という特日が、無意識下で ”欲しいもの” を願わせる。

─── その、次瞬のことだった。

組み敷くような体勢の下で、眠っていた福路の両目がゆっくりと開かれる。そして丸くなる。
竹井はあくまで冷静なまま 「タイミング…」 、 「最悪よ、美穂子」と心で呟き、けれども退くことをしない。小手先の誤魔化も間に合いそうになかった。
竹井は福路の両目に映る自分を咎めつつ、彼女の髪の内側に指を差し込んだ。
なかなかどうして困ったものである。
彼女の体調を案じている傍らで、この誕生日、竹井久にはどうしても欲しいモノがあるらしかった。
自分が案外、甘えたい側の人種であるということは、彼女と付き合い始めてから知った。いや、正しく言うのなら、竹井久を甘やかそうとする稀な人物が福路美穂子なのだ。だから竹井は時折、自分の中にある生粋の我侭を福路に対してだけ認めてしまう時がある。─── そう、今のように。
込み上げてくるような笑いに竹井が耐えていると、そんな竹井の代わりに、福路がフワリと微笑んだ。その表情は、何をしても許してくれるであろう母親めいていて、同時に、それらから最も遠い濃艶さも含まれていた。
横目で時計を確認した福路の手が、下からそっと竹井の輪郭をとる。

 「今日は……本当に申し訳ありません。折角の久の誕生日なのに」

本当に本当の申し訳なさを帯びた声で福路が言う。
辛いのはその体調のせいだけではないということが知れる。

 「ケーキ見たわよ、台所の。後でありがたく頂くわ」
 「あれ未完成のままで……恥ずかしいです」
 「そんなことないわ。美穂子の気持ちの分、絶対に美味しいでしょ。全部食べるから」
 「……ありがとう御座います。でも、用意していたプレゼントも渡せそうになくて…残念です」
 「そんなの別に気にしないって。……寧ろこの状況に私が謝るべきよね。病人相手に何をしてるのかって話」
 「風邪うつっちゃいますよ」
 「あーうん。そうよねえ……」

福路の咳がまた一つ。やはり身体は悪そうだ。
うつるのはどうでもいいが、このまま眠りを妨げてしまうのは良くない。
彼女の熱は未だ高い。薬も飲んでいた。身体はダルく、そして深い睡眠を欲している筈だ。
少なくとも竹井自身が風邪を引いた時はそうだった。
こんな時に求められて、さぞかし迷惑に違いない。

 「ひさ、髪が少しくすぐったいです」

しかし、ちっとも迷惑がってくれない福路が竹井に我侭を貫かせる。

 「ねえ美穂子。私ね、”今” 欲しいものがあるんだけど」

色違いの瞳が一瞬だけ驚き、そして穏やかに細められた。
そのほうに疎い福路でも、竹井を相手にしておいて、何を、なんてあさっての方向を見はしない。
福路は耳横にある竹井の手をキュと弱く握った。

 「汗……沢山かいてますよ?」
 「そうね」
 「風邪、うつりますよ」
 「その時は一緒に寝ましょう」
 「…………その時は…看病させて下さいね」

福路がゆっくりと上体を起こし、その体躯を竹井が抱き留めた。
時計の秒針がカチカチと十を数える頃に、福路の二度の深呼吸。

 「誕生日おめでとう御座います」
 「ありがとう」

竹井は福路の首筋に顔を埋めながら、そっと囁いた。

 「もらっていい?」

竹井の肩で福路が言う。

 「こんな私ですけど ─── もらって、下さい」

普段あまりに言い慣れない台詞なのか、福路の言葉はぎこちない。
顔も熱以上に赤くなっている。
背筋を騒がせる情動に竹井が息を吐く。

 「ひさ……」

微睡みがちな目が竹井を見た。
竹井は食むように唇を重ねながら、一つ一つ丁寧に福路のボタンを外しに掛かる。
密接する体温は平熱を越えており、明らかな無理をさせていることが分かるも、操られる舌に抵抗はない。
「ふ、」 と漏れる声も一段高くなっている。

 「寒くない?」
 「…………沸騰しそう、です」

キスの名残を光らせる唇にもう一度舌を這わせて、竹井がそっと福路を押し倒す。
最後のボタンを外し終えれば十全に育っている乳房が顔を出した。
弛緩気味の身体は艶めかしく、しかし、どこかあどけなさをも残しているのだから、なんとも悩ましい凶器である。
竹井はその鼻先を福路の豊かな谷間に埋める。
薄っすらと浮かぶ汗を舐め上げれば、ビクリ、と過剰な程に福路の身体が跳ねた。
更にゆっくりと舌を押し付けると、ハ、と思い出したように、福路が焦りを見せる。

 「久、あのっ……やっぱり汗…かいてて」
 「今日は特別美穂子の味がするわね」
 「ほんとう、ダメでッ……!」
 「気になる?」

谷間の横で揺れている柔肉部分に竹井が浅く歯を立てる。

 「こんなに美味しいけど」
 「うぅ……」

涙目の福路がまた竹井を煽った。
早く終わらせてやりたいが、しかし誕生日という免罪符に微笑んで、長く鳴かせたいと思う興奮もある。
竹井は片手全体で福路の胸を遊び始める。
柔らかく大きな感触を楽しんでいると、次第に、固く小さな感触が当たるようになった。
少し上から聞こえる甘い呻きに竹井も吐息を濁らせる。

 「っ、ぁ…んぅ…」
 「いい声、ね」
 「んッ…」

竹井の指が福路の先端をグリグリと刺激する。

 「ね、美穂子」
 「ぁ…ッ」
 「こんなの……私以外にあげたりしたら駄目よ…?」

低く顔を上げた竹井が、ありえない、といった福路の表情を見る。
貰っていても貰われていなくても、彼女はもうどうしようもないくらいに竹井久のモノであった。
竹井は堪らず笑みを漏らして、もう片方の先端を口に含む。
味わって転がして、その敏感を全て吸い上げて、福路の息が抜けたところを思い切り弾いた。
目を見開いた福路が、刺激の逃げ場を探して竹井の頭を押した。

 「なに? もっと?」
 「っあ、違い…ま…!」
 「……今、腰浮いたわね」

下肢の方で焦れた太腿が震えていた。
呼吸を詰めている福路にキスをしつつ、竹井が服の上からそこを撫でると、もどかしそうに膝が曲げられる。
まだ核心部分には触れない。
手は太腿から脇腹をなぞり、また下肢に戻る。
そのまま肉付きのいい尻たぶを揉むと、再び彼女の腰がイイ反応を見せた。
竹井が 「気持ち良い?」 と耳元で囁く。
福路の口端に伝った唾液を竹井の手が拭う。

 「……ッ、え…美穂子?」

─── すると、拭っていた竹井の手を福路の両手が包み込む。
色違いを持つ綺麗な瞳と、色違いの熱に犯された瞳の両方に出合えば、竹井の中指と薬指に福路の舌が当てられた。
浅いものであったそれはそのまま口内に含まれ、深く拙い舌使いを受ける。
その指は、竹井がいつも福路の奥を掻き回す二本だ。

 「美穂子……」

竹井の腹底にドクリとする拍動が生まれる。
生暖い感覚が指先に集中し、思わず恍惚としてしまう。

 「こんな可愛いことして……癖になったらどうするの」
 「ん…ぅ」

指を出し入れさせると酷く性的な音が響いた。
生理的に流れる涙もまた劣情を煽り、ハア、と竹井が喉を鳴らす。

 「ひ…さ…ッ」

指を抜く。
その指を竹井が舐め上げれば、福路が途切れ途切れに、積極的に、名前を呼ぶ。
こんなのは初めてだった。
二つの意味で本当に身体が限界なのだろう。
早く早くと訴えている。

 「無理させてゴメンね」

竹井は福路の下を脱がせると、その間に身体を割り込ませた。
白く震える内股に愛液が滴る。
汗と愛液とでますます濃厚になった彼女の匂いに、竹井も自分の中で溢れるモノを感じた。
そして竹井は福路の入口に指を添えると、再び彼女の耳元に顔を寄せた。

 「でも……ありがとう」
 「あっ…」

竹井の長い指がヒクつく入口付近を彷徨う。

 「美穂子からしか貰えない、最高の誕生日よ」

胸で胸を押し潰すような体制で、竹井の一部がゆっくりと福路に挿入される。

 「…あっ…!」
 「は……こんなに濡れて…」
 「やっ……ッ!!」
 「それに、熱くて、濃い、わね……っ」

ねっとりと絡み付く福路の中を竹井が掻き回す。
充分に潤っているその場所がグチュグチュと鳴いて悦ぶ。

 「可愛いわよ…美穂子」

汗の流れた鎖骨に口付け、竹井が指の動きを早める。
上下左右と散らしているうちに秘所はより湿った重い音を立てるようになった。
しとどに溢れる愛液が白く濁り、その激しさを物語っている。
竹井が指を増やして突き上げると福路はビクリと身体を反らせた。

 「ひさぁ……」

好きです、と。
うわ言のように言われ、竹井が満足気に笑う。
私も、と返すと、福路が中にいる竹井の指を強く締め付けた。
輪を掛けて赤面する福路に、竹井が呆れる程の愛おしさを込めて呟く。

 「また来年も美穂子を頂戴」

ね? と言うと福路が竹井を抱き締めながら頷いた。

 「約束よ」

竹井が自由な親指で福路の割れ目をなぞった。
探るようにヒダを広げ、その少し上にある淫芽を押し拉ぐ。
同時に中のイイ所を穿てば、多量の愛液が零れ落ち、そして ─── 福路から声にならない声があがった。


■■■■■


体力の限界を迎えた福路が深い寝息を立てている。
竹井は彼女の頭を撫でながら、本当に無理をさせた、でも、これ以上はないプレゼントだったと苦笑する。

 「せめて明日には美穂子の風邪が私にうつってくれてると良いんだけど……」

そんな願いを込めながら、竹井はもう一度だけ福路にキスをした。


















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