中学三年の中夏、放課後のことだった。
原村和が提出した 『進路希望調査表』 が、にわかに職員室を騒がしくする。
教師は予想外を顔に濁し、暗に 『間違いではないのか』 と問うていた。
学年随一の成績を誇り、部活動においても日本の玉座にまでついた原村和が、最後の最期に模範を外れようとしている。
─── 彼女を欲しいと言っていた学校は多くあった筈だ。
─── 学力と麻雀のどちらからでも推薦があった筈だ。
なぜ麻雀の名門校が第三志望で、なぜ東京の進学校が第二志望に据えられている?
間違いではないのか? 親は止めなかったのか?
こんな普通の公立校に進学したところで、何が彼女の為になる?
「それでは失礼します」
教師の戸惑いが解けぬ内に、和は笑顔で職員室を後にした。
教師の手に残ったのは摩訶不思議な進路希望表。
進学校や名門校を ”滑り止め” とした、第一志望が最も簡易な公立校という前代未聞の代物だった。
期待値理論
中学三年の初夏、昼休みのことだった。
溜息交じりに職員室を出た原村和の腕には、今にもこぼれ落ちてしまいそうな量のパンフレットが抱えられていた。
学校案内を主軸としたそれらは、カラーや白黒、大型なものから小型なものまで実に個性豊かだ。
下の方で重ねられているモノに至っては、同じく大豊である和の胸に押し潰されてしまっている。
もう一方の手にも同じようなものが詰め込まれた紙袋。
紙というものは意外に質量を持つもので、和は何度も袋を持ち直す。
薄っすらとした汗と蝉の声が渡る廊下で、和の両腕は完全封鎖状態となっていた。
教室へ戻る和の足取りは重い。
職員室に呼ばれることになった原因 ─── 制服のポケットに入っている進路希望表は、提出期限を間近にしても未だ白紙のままであった。教師の話によると、学内で提出していないのはもう和だけだそうだ。
『一体どうしたんだ原村。お前の成績と内申で狙えない高校はないんだぞ。行きたい高校を書けばいい。前に親御さんとの面談で言っていた東京の進学校、あそこはどうだ?』
転校当初から常に学年上位の成績を収めてきた彼女が、ここまで悩む理由が教師には理解出来ないようだった。
『お前には部活推薦の道もある。他県からのスカウトもあっただろう』
更には、この腕の中のパンフレット。この学校は皆、和を受験免除で受け入れると名乗りを上げている高校だ。
いわゆる部枠においての特別推薦。特待生。
全国中学生麻雀大会個人戦覇者(インターミドルチャンピオン)の原村和を、向こう側から欲しいと言ってきているのだ。
A校は今をときめく麻雀名門校、B校はトッププロを多く輩出する古豪、C校は文武両道を掲げ、中には学費免除や制服自由化を提示している所もある。D校…E校…F校と、勉学部活に全力を賭した和の未来は引く手数多であった。
選択肢が多過ぎて絞り切れない、ということならば、なるほど教師の首肯も得られたであろう。
けれども、和はそれを得られなかった。和はただ正しく純粋に ─── ”進路”
というものを、自分が在りたいと思えるような場所を探し出せていないのであった。
自分と進学校、自分と名門校、どれを重ねても首を捻るだけの毎日。
どこを選べば、この中学生活のように楽しく歩いて行けるのだろう。
「…………本当に困りましたね」
重い紙袋が和の頼りない指先を白くする。
道は袋小路。期限は待ってくれない。決めなければならない。
輪郭に流れた汗は確かな焦りだった。
いっそのこと運に頼ってしまおうか。勘で決めてしまおうか。
「なんて、ありえませんけど」
否 ─── 運や勘に頼るのだけは頂けなかった。
答えはどんな時も最短と効率、そして、期待値までを織り込んでこその原村和なのである。
和は廊下を歩きながら改めて考える。熟考する。
最短効率に基づけば、父が何度も薦めてくれている東京の進学校を取るのが妥当だ。
自ずと将来が開けるその名は、籍を置くだけで大人達を唸らせることが出来る程。
大学選出もかなり楽になるという噂だから、父が自分の為を想って薦めてくれていることを和は重々に承知している。
麻雀の、特別推薦の方はどうだろう。
熱心に話をしてくれた名門校の監督が印象的で、ああどちらかと言えば自分の意識はこちら側にあるのだと和は悟るが、
その割には食指が動いてくれなかった。心だってそうだ。充実した麻雀設備や環境は確かな魅力に溢れていたが、それは心に直結するものではなかった。周りには贅沢だと苦笑されるも、それが本心で、ここを平然と曲げられる程、和は器用ではない。
「お。のどちゃん荷物運びか? 手伝うじょ」
思考を渦にしている和が、再度紙袋を持ち直した時だった。
雰囲気を明とする一声。
和の重い歩調に合わせて、濃橙色の髪が肩を並べる。
「優希」
片岡優希。
同級生であり、同じ麻雀部であり、和が長野に来た時に一番初めに出来た友人でもある。
笑いもするし喧嘩も出来る、そんな瀟洒な間柄。
タコス好きな彼女らしく、利き手には彼女が行きつけにしている店のタコスが握られている。
残り三分の一程であったそれをペロリと平らげると、優希は和の紙袋を持った。
「ありがとう御座います」
「のどちゃん、先生に押し付けられたのか?」
優希は荷物の中身には興味がないようで、もう前を向いていた。
何も訊かれないことが今の和にはありがたい。
「……無理に押し付けられた訳ではありませんが、持っていくようにと言われました」
「早くお弁当食べないと昼休みが終わってしまうじょ」
「優希はまたタコスですか?」
「あったり前だじぇ」
「前にも言いましたがもう少しバランスを考えた食事を……」
「のどちゃんの言いたいことは分かるじょ。 だが!呪われた血族の長たる私はタコスを一日食べないだけで命を落としてしまうのだ!!」
「そんなオカルトありえません」
クス、とそんな雑談をしながら和と優希は廊下を進む。
「そういえば、優希がよく行っているあのタコスの店。改装工事をするらしいですね」
「!? な…な!?!?!? のどちゃん一体どこからそんな機密情報を!?」
「シャッターに貼り紙がしてありました。てっきり優希はもう知っているものかと……」
「何日くらいだッ!?」
「そんなに大掛かりなものではないみたいでした。確か……一週間とか」
「死活問題だじぇ!!!!」
「一週間でですか!?」
「呪われた血族の長たる私はタコスを一日食べないだけで命を!!」
「そんなオカルトありえま……………………えっと……優希本当にショックそうですね」
「テンション下がるじぇー」
「そ、そんなに落ち込まなくても……」
「じぇー」
「しばらくはタコス味のお菓子か何かで乗り切るとか」
「じぇー」
「もう……。…………仕方ありません。一週間くらいでしたら私が作りましょうか?」
「!? のどちゃんの手作りか!?」
「味の保障はしませんよ」
「天使だじょ、のどちゃん天使!! さすがは ”高遠原中学・お嫁さんにしたい女子No,1”
だじぇ!!」
「やめて下さい。そもそもあの投票は文化祭で勝手にエントリーされていたもので、私は関係な、」
「裏でコッソリのどちゃんをエントリーした甲斐があったッ。我が家の台所もいつでも預けられるじょ」
「あれ優希が犯人だったんですか!?」
「ハッ!!しまったじょ!!!!」
廊下の角をいくつか曲がった後、二人は階段に差し掛かった。
一息ついた会話も話題は尽きず二転三転しては華が咲く。
「優希?」
階段を上り始めてからしばらく ─── 不意に優希が足を止めた。
横並びの状態から二・三歩前に出ることになった和が、訝しげに振り返る。
「のどちゃんボーッとしてるじぇ。これ以上アガると教室通り過ぎるじょ」
「あ…………もうこんな所まで来ていましたか」
「珍しいじぇ。夏バテか? 」
「大丈夫ですよ。失礼しました」
踵を返し、和が教室への動線に戻る。
「暑い日が続くからな!!のどちゃんも水分とタコスの補給はマメにしないと駄目だじょ」
「タコスは余計です。塩分補給という点でならアリかも知れませんが……」
再び優希と何でもない雑談を始める傍らで、和は少しだけ驚いていた。
和が目指す教室は職員室から真逆の位置にあり、そこへ行くには更に階段三階分を上る必要がある。
室内ながらにそこそこの時間をとられる移動であった為、和の算出ではまだ教室階に着く予定ではなかったのだ。
不思議な感覚だった。
職員室から一人で歩いていた時と、優希と二人で歩いてからの時とで、時間の流れが全く違った。
体的には倍速に等しい。圧倒的に早かった。同じ時間軸なのかと非現実なことを疑うくらいに。
そしてもう一つ、和は今しがたになって気が付いた。
重く感じていた足が軽い。
歩幅こそ変わらないが、うっかりと階段を上り過ぎるくらいの軽快さがあった。
こうして気が付いてしまえば、先とはもう比べものにならない。
─── 何故?
和が首を傾げる。
ああ、優希が半分荷物を持ってくれたお陰ですね。その分は軽くなっていて当然です。
だから。
「でもそれなら時間間隔のズレはどういう理屈で……」
「じょ?」
和が自問していると、数メートル後方から 「片岡さん」 と呼ぶ声がした。
この声はもちろん二人ともが知っている。
昼休み前の四限目にも授業を受けた、数学担当の教師だ。
ただ、少し怒り気味である事と、優希が冷や汗のようなものを流し始めたのが和の気になるところであった。
回転に富む和の脳が、一息で現状への可能性を弾き出す。
「優希。確か今日は日直でしたよね。授業の後に集めた全員分のプリントをまだ提出していないなんてことは……」
「…………ぐっ。こんな時、」
「タコスがあってもどうにもなりません」
「!? 先回りでツッコむのは残酷だじぇ!!」
「しかもあのプリントは資料室まで持ってくるようにと言われていた筈です。処理までの期間が少ないから
”必ず” と」
「マジでか」
「聞いてなかったんですか……」
そうこうしている内に、笑顔ではあるものの笑ってはいない教師が優希の肩を叩いた。
穏やか過ぎるその叩き方に優希の顔から血の気が引く。
「の、のどちゃん……どうやら私はここまでみたいだじょ」
「まったく……」
和は小さく微笑むと、今にも優希を強制連行しそうな教師に向かって、彼女が自分の荷物を手伝ってくれていたことを話した。もしかしたらそのせいで提出が遅れてしまっているのかも知れないと。
当然優希がプリントの存在を忘れていたことは伏せておく。
優希が自分の荷物を助けてくれていたことは事実なので、別に和も何かを偽ることにはならない。
「恩にきるじぇ……のどちゃん」
和の話を聞いた教師は、それならば、と優希を解放した。
早く資料室まで持ってくるように伝えて、今来た道を戻って行く。
「本当のことを言っただけですから。……でも、プリントは急いで届けた方が良さそうですね。私の荷物はここで良いですから、優希はそちらに行って下さい」
「ここまで来ておきながら無念だじょ……」
「いいえ。とても助かりましたよ」
ありがとう、と和が言って、優希から荷物の返却を受ける。
「しばしの別れだ、のどちゃん。教室まで残り数十メートル……道のりは長く険しいが、寂しくなったら私とタコスのことを思い出すんだじょ」
「なんですか。その今生の別れのような言い……か…………た……?」
大袈裟な優希を流そうとした矢先、和は自分の身体がズシリと重くなったのを感じた。
突然のことに堪りかねて、腕からは数枚のパンフレットがこぼれ落ちる。
自分を取り巻く空気が、ユラ、と震えたように思えた。
パンフレットを拾ってくれる優希の姿がやけにゆっくりと見えていた。
和は咄嗟に返ってきた荷物の重量を考えるが、全く関係のない胸までもが苦しくなったことに一人狼狽する。
「およ? のどちゃんどした?」
「……いえ。少し胸が……」
「大きいのか」
「違いますッ」
「違わないじぇ。でもまあ私は往くぞ!さらばだのどちゃん!」
”さらばだ ”という台詞が、特別和の中で反響した。
嫌な心地がしたあげく、暗い何かで殴られたような衝撃。
「あ…………ゆ、優希!!」
「じぇ!?」
「!?」
曖昧な静寂。
優希よりも、叫んだ和の方が、仕掛けた和の方が驚いていた。
思わず見合わせた顔には一筋の汗がつたう。
和は自分の想定外の行動が信じられない。
「のどちゃん?」
駆け足で離れようとした優希の背に、和の手が伸びたのだ。
まるで離れるのを止めるかのように優希の制服を掴んだ。
それも相当な強さで。
「……ゆ、……優希。その……」
急に後ろから引っ張るという、一歩間違えば怪我をさせていた行為だった。
和は謝ろうとするが、言葉は続かず、手だけが優希を掴み続けている。
先に受けた暗い衝撃が、遠くで痛みに変わろうとしていた。
「のどちゃん体調でも悪いのか? 少し変だじょ」
実に不思議そうに、優希が振り返った。
和の手は自然と離れる。
「さっきまでは元気そうだったけど…………」
優希は和の頬に触れた。
「今は泣きそうな顔してるじぇ」
今度は明確に和の胸が痛みを訴えた。
心配そうにしている優希を焦点に、和はどうしてか進路希望表を思い出す。
優希と進路と ─── 一見何の接点もない二つが強烈に迫った。
「……そんな顔してませんよ」
和は、長く、低く、瞳を下げる。
ズキリズキリという波が和に語り掛けることがある。
「してるじょ」
進路。卒業。さらばという言葉。
そうか。
栄えある東京の進学校も、名誉ある麻雀の特待生も、何もかもが優希との別れに直結するのか。
隣にいるとあっという間に過ぎた時間。
自覚がなかっただけで、今までもそうやって過ぎていたに違いない。
「今なんか涙目になってるじぇ」
和は奥歯を噛み締める。
思えば、自分と優希の会話には不自然なくらい進路の話題が出なかった。
同じ部に所属し、放課後や休日、その他プライベートでも会う仲であったのに、そういう類の話は一切してこなかったのだ。まるで暗黙の了解のように相談らしきことさえしてこなかった。
きっと優希は難しく考えたからそうした訳ではない。
第六感のようなモノを用いて、分かっていたのだ。
和だけが分かっていなかった。
学力に内申、家の方針も違えば、自ずと行き先は変わってくる。
二人の進路は交わらない ─── 別れが、近い。
何度か転校を経験した和は経験則から学んでいる。
新しい学校や新しいクラスが出来れば、そこがもう自分の居場所だ。
今回は卒業という祝うべき門出になるのだけれど、形式が変わったところで同じだろう。
まかり間違っても悪いことではない。が、物理的な距離は親友と呼べる仲に気まずさをも連れてくる。
大した理由もなく会う回数が減って、大した理由もなく話す機会が減る。
心を残せば残すだけ、それは辛くて、寂しいのだ。
「? ……ゆ、優希!?」
「保健室」
「え?」
「保健室行くじぇ」
黙っている間に、優希が和の荷物を取り上げた。
それを通りすがりのクラスメイトに託し、身軽になった和と手を繋ぐ。
「体調が悪いならどうしてもっと早く言わないのだ!? こうなったら私が力ずくで連れていくじょ」
「……いえ、本当に体調は。それに優希はプリントを届けに行かないと次こそ叱られますよ」
「慣れてるから大丈夫だじょ」
「慣れないで下さい」
「今の私はのどちゃんの方が大事だッ」
小さな優しい力が和を保健室へ導く。
想像以上に優希が真剣な目をしていたので、和はそっと面を伏せて従った。
「優希」
廊下を歩く道すがら、和が訊ねる。
「私はそんなに酷い表情をしていましたか?」
優希の答えは、応。
最初はそうでもなかったが、先の場面では倒れてしまいそうだったと言う。
「そうですか」
和がフと微笑する。
繋いだ手ばかりに意識が向いていた。
少し昔のことを思い出す。
まだ奈良にいた時のことを思い出す。
進学にクラス替え、転校。みんな少しづつ別れていった。
徐々に細くなっていく糸が見えてしまう。切れたのか切れていないのかも分からない糸が永続的に留まってしまう。
別に誰も悪くなかったからこそ、『こんな気持ちになるのなら初めから……』 と一人で歩いたこともある。
そんな時に出会った片岡優希。
寂しさに挫け、一人でいようとした自分に、友達は楽しくて嬉しいということを今一度見せてくれた。
「着いたじょ。他の生徒はいないし、のどちゃんの貸し切り状態か。ゆっくり休めるじぇ」
「はい。ありがとう御座います。保健室の先生も……会議中みたいですね」
「担任には伝えとくじょ」
「よろしくお願いします」
優希に促がされ、和がベッドに横になる。
皺になるといけないので、ポケットから進路希望の紙を取り出した。
四つ折りにされているそれを何とはなしに開いてみる。
「のどちゃんそれまだ提出してなかったのか? もう期限ギリギリだじぇ」
優希が近くの丸椅子に腰掛ける。
「てっきり麻雀スカウトか学力推薦に決めてると思ってたじょ」
「それは確かにあるのですが、いざ書こうとすると悩んでしまって……」
「そういうものか。選ぶのも大変だな」
「……優希は」
「?」
「優希はどこの高校に行くつもりですか?」
「私か? 私は清澄に行こうかと思ってるじぇ。なぜなら清澄の学食にはタコスがあるのだ!」
「清澄 ───」
ようやく和にも、自分が在りたいと願える場所が見えた。
学校名が重要なのではない。言ってしまえば、高校はどこでも構わなかった。
目の前の、片岡優希という人。
友情なのか、それとももっと別の何かか ───
この気持ちの整理はつかないけれど、ただ、優希の隣にいる自分は悪くないと思うのだ。
進学校に進んだ自分よりも、特待生となった自分よりも、きっともっと楽しくて笑顔のある日々を過ごせるのだと思う。
「優希。私がもし一緒の高校に行くと言ったら……」
「のどちゃんと同じ高校か!? そんなの無理だと思ってたじょ。でももし ───」
と、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
予鈴を兼ねるこの音は、実質、午後の授業が始まる十分前になったことも教えている。
「あ。次って体育……」
「!! 忘れてたじぇ!!」
「それにプリントも」
「ヤバイじょ!!」
優希が慌てて腰を上げた。
そして、バタバタと保健室を出る去り際に、優希は和に向かって叫ぶ。
「のどちゃんと同じ高校!!そんなの嬉しいに決まってるじぇ!!」
優希の弾けるような笑顔に、和の滲むような笑顔。
和は静かになった保健室でボールペンを借りて、進路希望表の記入を始めた。
親を説得する必要があるだろう。教師に説明をする必要もあるだろう。
きっといい顔はされない。再考を望まれるかもしれない。
しかしそれでも、スラスラと白紙を埋めるこの迷いの無さが、今の和の心でもある。
「100%ですね」
”世間一般” で語られる最短効率とは外れた進路が完成するも、和は満足気にそれ見る。
らしくないとは言わせない。
元より、期待値までを織り込んでこその原村和だった。
優希の隣にある期待値は、どんな堅実な進路を相手にしても、揺らぐことのない明るさを割り出している。
運や勘に頼るのは頂けない。原村和に偶然はいらない。
確率にして100% ─── 清澄高校での生活は満ち足りたものとなるだろう。