────── ハッキリ言ってそれでも二人の生活に害はなかった。
成人近くまでに築いてきた在り方は、今更切っても切れない一面だ。溝らしきものが存在していたとしても、自身を残念だとまでは思わない。
けれど、満たす気もなかったそこを充実させる人が現れた。
三年前と今夏に現れてしまった。
竹井は福路の前に、福路は竹井の前に。
定位置である後ろから引き摺り出され、たどたどしく上がった舞台上で見たものは、本気という試練と、諦めない怖さ。



苺味の閉塞心 <後編> ※R-18・大人向け



自宅を飛び出した竹井久が三メートルにも満たない距離で足を止めたのは、今まさに、玄関のチャイムへと指を掛けていた福路美穂子が立っていたからだった。
冷気が目覚める時間帯、無数に輝く夜星を背に、妙にスカート部をヨレさせた制服をしている福路のアンバランスさが竹井に映るが、竹井自身も制服のタイを外しただけの、実に中途半端な格好をしていることを思い出した。くっきりとした皺も刻まれていて、これでは双方自慢の制服姿が台無しである。
ただ、竹井も福路もその辺りに鈍感なタイプではないのだから、この場合は、格好よりも優先すべきものがあったと見て取れる。
玄関から勢い任せに飛び出した竹井久、肩で息をし呼び鈴を鳴らさんとしている福路美穂子。あまりのタイミングの良さに動きを止めてしまったものの、これでもかと通った目線を ─── 隔壁の消失を ─── 悟れぬ二人ではない。

 「美穂子……」
 「久……」

ユル、と。
だが決然と口を開いた竹井と福路が、ほぼ同時に頭を下げた。
そして言う。
「ゴメン」 と 「ごめんなさい」 と。
頭を上げる瞬間も同じだったようで、後には秋虫の鳴き声だけが響いた。
夜空では細い雲が流れる。
飛び出した分だけ足を戻した竹井がゆっくりと玄関のドアを開いた。

 「入って。お互いに話さなきゃいけないこともあるでしょうし」
 「…………あの!久っ」

足を半歩家に入れた途端、竹井の制服が弱力で引っ張られた。
竹井が首を翻せば、裾を摘むようにした福路の人差し指と親指が確認出来る。
前髪に隠れんとする瞳は低めに下がるが、光彩強い直線を守っていた。

 「私……久に」

福路が唇を噛む。
秋虫の音がピタリと止んだ。

 「とても酷いことをしました。嫌われて当然のようなことを何日も……。今日だって…傷付けて」
 「おあいこでしょう。暴走した相手になんて誰だって脅えるわよ」
 「そうさせたのは私です」
 「私は美穂子にそうしてくれって頼まれた覚えはないわ。自分の意思での行動だった」
 「本来なら久が謝る必要だってな、」
 「ある。…………けど……うん。この話は平行線になりそうね」

竹井が身体ごとを振り向かせて福路の台詞を遮断する。

 「お互いちゃんと心から頭を下げた。反省してる。だからこの内容はここで終わりにしましょう」
 「私っ!」
 「─── ねえ、美穂子」

一呼吸の橋渡しに風が吹き、二人の髪を攫った。
福路の腫れた瞼を見咎める竹井が彼女の肩に顔を埋める。
腕は敢えて回さず、しばし他愛のない暖かさに浸ると、力を抜くようにして言う。

 「そんなつまらないことを言いに、急いで来てくれた訳じゃないんでしょ」
 「…………それは」

福路が浅く固く首肯する。
出口を失った詫言に迷走しながらの、指だけで押すようなヤワい抱擁が竹井に齎された。

 「私も最大限 ─── 何度だって謝るつもりだったけど、どうやらその必要性はなかったみたいだから」
 「ですが……私がしたことは…安易に許されて良いことだとも……思えなくて」
 「安易、ねえ」

竹井の視線が福路の目尻に残る涙跡に触れる。

 「私が帰った後の美穂子の様子は、遠からず想像出来てるつもりよ」

憶測と並べるには自信を滲ませる声が続く。

 「─── で」

言い差す竹井。

 「少しズルい言い方をすると、私も似たようなものだった」

長短の間で竹井は更に繋げた。

 「ね?おあいこでしょ。詳しい話は聞きたいけど、今回の顛末は喧嘩両成敗仲直りで良いじゃない」
 「…………しかし」
 「まあ美穂子がどうしても自分が許せない、罰が欲しいって言うのなら ─── もう自分を責めたりしないことね。それが罰よ」

何か言いたげな所作をした福路が、恐らくはその言葉を廃して、そっと竹井に耳打ちするように呟く。

 「そんなの……普通は罰って言いません」
 「でも美穂子には効果覿面じゃないかしら」

福路の頬に竹井の手が伸ばされた。
その手を自分の頬と肩で挟んだ福路は、罰ではない罰を受けようと、少しの間、目を伏せる。

 「不服そうなところがまた罰っぽいわね」
 「……確かに、ですね」

福路が晴朗の難局に微笑んだ。
対する竹井は安局の良好で告げる。

 「仲直り」

愛おしい居心地が違和感から戻ってきていた。
回帰した居心地は元の鞘に収まることをせず、奥行きを深めて二人を抱き合わせる。
重ねようとした唇があるが、しかし、あと一息の隙間を空けて、それははにかみへと変えられた。
凝視せざるを得なかった緊張の糸。
崩れた壁の向こう側にある関係を二人は想起している。
一週間前のあの時と同じ先を見据えている筈なのに違和感も息苦しさもない今 ───
気付いたことがある。話したいことがある。
そして ─── 進むのだと思った。




二人の語らいは夜中まで行なわれた。
ベッドの淵に腰掛けて代わる代わる。コトの発端から現在に至るまでを。
終電が過ぎることは暗黙の了解として。

 「……つまり、美穂子が私と目を合わせなかったり避けてた理由って……。一言で纏めると、好きを通り越した結果?」

福路の話を最後まで聞いた直後、堪え切れないという風に竹井が笑う。

 「ふふっ」
 「そ、……そういうことだったみたいで。お騒がせしました」
 「好きを通り越して避けられるって普通あり得ないわよ……ふふふっ」
 「本当にごめんなさい。…………それに、怖くなるくらいに好きなんて……私、駄目ですよね」
 「そこは落ち込むところなの?」
 「重いというか……」
 「何言ってんの。世間の恋愛事情には私も疎いところだけど ─── 私みたいなのには美穂子くらいが丁度良かったみたいよ。特定の誰かに対してこんなに頭を抱えたことなんてなかったもの。方向性は違うけど美穂子もそうだったってことよね」

器用に歩いてきた竹井とそうではなかった福路。
全く違う生き方をしてきた筈の二人は不思議とよく似ていた。
己が内にある雅量と、それ故に抱えていた寂寞は、あまりに似過ぎていたのだった。
相手が互いでなければ、こんな側面に気付けることもなく、順調のみを前にしながら、また、諦めたりしながら、いつものように後ろから諦観出来ていたのだろう。
────── ハッキリ言ってそれでも二人の生活に害はなかった。
成人近くまでに築いてきた在り方は、今更切っても切れない一面だ。溝らしきものが存在していたとしても、自身を残念だとまでは思わない。
けれど、満たす気もなかったそこを充実させる人が現れた。
三年前と今夏に現れてしまった。
竹井は福路の前に、福路は竹井の前に。
定位置である後ろから引き摺り出され、たどたどしく上がった舞台上で見たものは、本気という試練と、諦めない怖さ。
スポットライトの中心は、実に厳しく、実に眩しく、時に苦しくて、時に照れやかだった。
本気を知らないこと、諦めることの何と楽であったことか。
竹井と福路は白状する。
上手くはやれなかった。恐怖するくらいだった。執着、だった。初めて、だった ───

 「初めてばかりね。私達」
 「はい」

そして、話の節目。
静かになった次の次。
偶然にも、二人は全く同じ瞬間に 「好き」 と言った。
そのまま唇を合わせると、円やかに絡む舌と共に今まで以上の大きな一体感が二人を襲う。
竹井は福路をベッドに倒し導いた。
説明は不要。覆い被さるような体制で、キスをまた一つ。
頬を朱に染めた竹井と福路は二人笑む。

 「ちゃんと言うのよ。嫌だったり痛かったりしたら」
 「?」

福路の髪を撫ぜながら、竹井は少しばかり角張った表情を浮かべた。

 「今回の件で学んだわ。私はたぶん色々な面で美穂子には優しく出来ない。他の子と違ってね」
 「……久」

今度は福路が竹井の髪に愛おしげに触れる。

 「全然そんなことはありませんけど」

髪端に辿り着くとその先を軽く握った。

 「…………も……ですよ」
 「え?」
 「嫌じゃありませんし、……痛くても……良い、ですよ」

竹井が若干目を見開く。
その様子に福路は慌てた。

 「そ、その、変な意味ではなくてっ!……も、もう怖くなんてありませんし、突き飛ばしたりしませんということで」

クスリと竹井が目を細める。

 「大丈夫大丈夫理解してるわよ。……けどね、それじゃまた止められなくなるじゃない。正真正銘、美穂子を傷付けるかも知れない」
 「仮にそうなったとして、それがどれぐらい痛みなのか、私はきっと全く理解出来ていません。……ですが……もし私が痛いと言ったとしても、もし泣いてしまっても」

竹井の髪を放した福路は自分の顔を隠すように、しかし、やはり隠さずに、しっかりと竹井を捉えて言う。

 「止めないで欲しいです」

一瞬、部屋がシンと静まり返った。

 「止めないでって……。無理はさせたくないわ。私も女だからなのでしょうけど、 ”初めて”の記憶がそんなのってあんまりだし」
 「ごめんなさい久。逆なんです」
 「どういう意味?」
 「それでもどこかで嬉しく思っている自分がいます。きっと……どういう形であれ、傷にはなりません」
 「…………美穂子」

募る双眸。懸命な瞳。
消え入る声に反して、竹井は福路の熱烈が更新される様を目の当たりにしていた。
恥ずかしくて恥ずかしくて仕方がないくせに、必死に上書き部を伝えようとしてくれている。

 「私だってまた久を傷付けてしまうかも知れません。こういう場の振る舞い方を知らない私ではどうすることも……。…………ごめんなさい。でも、それでも、私は」

先に想いを持ち、追い続け、先に壁へと辿り着いた福路美穂子は、こと深層においては竹井久の先手を行っているようであった。
この度の擦れ違いで二人が学んだものは等価同等そのものであったが、そこは千日のアドバンテージ、竹井にはない累積値を有する彼女は、甘苦両方をも受け入れる器で心と告げるのだ。

 「私は、久が好き、で……」

竹井は自分の喉がゴクリと鳴った音を聞いた。
悩ましげな視線に連動する福路の唇が竹井の平静を根こそぎ削いでいく。
この瞬間に福路が小さな驚きを見せたのは、彼女の熱烈を追うようにして、竹井の甘酢にも更新が掛けられたからに相違ない。

 「美穂子には勝てないわね」

独白で呟いた竹井はシーツ上に投げられていた福路の手を押し付けるように強く握る。

 「けど……今、追い付いた」

手平に掻く汗を感じながら、竹井は諒する。
汗は更新の実効、裏付けであった。
福路の前に立ちはだかったとされる壁が竹井の前に鎮座していた。
この壁に対し彼女が怯んだ気持ちが分かる。
寒気さえ覚えながら、この熱量が向こう側から離されるくらいならせめてと脅えたのだ。
奇縁と気炎、奇跡と軌跡、もう二度目はないような、そんな相手だったから。

 「さっき笑ったこと謝るわ」
 「……さっき?」

想像して、怖いと思うから、追い付いた実感がある。
乗り越えれば、甘苦の区別に構ってはいられない。

 「三年分追い付いたわよ? 私も美穂子ことが怖いくらいに好き───」

竹井は押し付けていた福路の手の拘束を強めると、その真横の首元に吸い付いた。
ん、と福路の詰めた声が漏れ、白く薄い皮膚がビクリと脈動する。

 「 ”怖くなるくらいに好きなんて重い?”」

先程の福路の台詞を我が物とした竹井が微笑する。
福路は泣き笑いのような表情で答えた。

 「”私には丁度良い” です」

竹井が薄く開いた福路の口を塞ぐ。
何度キスをしても必ず一度は奥に隠れしまう福路の舌を解して二人分の唾液を汲み上げた。
無味の筈のそれはこれまでで一番互いの味を含んでいる。
いくらでも飲んでも、いくらでも欲しくなる。

 「……ふ…ッ」
 「…美穂子」

不揃いと化す呼吸の上下。いつもならここで二人の触れ合いは終わる。
しかし、今日は終わらない。止められないし、止めて欲しくない二人だった。
竹井は福路の首筋に顔を埋めると、ゆっくりと制服のボタンを外した。
サイドファスナーを上げて裾を捲くり上げる。
腕を上げて脱がせると、質量に揺れる福路の乳房が竹井の焦点を奪った。
彼女の制服と同様の白とピンクを基調とした下着がキツそうに張り詰めている。

 「…………」
 「あ、あまり見ないで頂けると……」
 「…………無理ね。今までもお風呂とかで見たことはあったけど……あれとは全く別」
 「……ぁ、久っ」

フロントホックの下着は竹井の手によってその役目を放棄させられた。
締め付けから放たれた二つの大きな半球が竹井の前に零れ出る。
同姓としては見慣れている筈のそれであるのに、高揚している白肌と桜色の頂は酷く悩殺的だ。
同じ女であっても、好きを携えて直視したならば、手を伸ばさずにはいられない。

 「…んッ」
 「っ」

柔らかな丸みに指を沈ませると、竹井の背筋に高熱が這った。
無尽蔵かと思われる弾力を贅沢に揉み上げれば、今までに聞いたこともなかったいやらしくもいじらしい福路の声が竹井の熱を中心に集める。
純粋に気持ちが良い。
不純に気持ちが良い。
そして、なればこそ、自然と力加減は強まった。
触れれば触れるだけ形を変える胸をもっともっと自分の形に歪ませたくなる。

 「や……あっ、」

福路の腰が微弱に跳ねたその時、竹井の指の隙間から彼女の桜色の先端が顔を出した。
福路もそれを理解しているのか、竹井と目が合うや否な、元より赤い顔を更に紅潮させた。
竹井は誘われるようにして起立した福路の粒を口に含む。
コリコリとする独特の硬さを舌で突けば、またしても福路の腰が上がる。

 「……ッ、ん、ンあ」

抑えようとして何度も失敗する福路の嬌声が竹井の肌をざわつかせる。
くぐもる彼女の艶めかしさに生暖かい吐息を吐く。
刺激を与えられているのは福路にもかかわらず、与えている竹井も同等以上の刺激を受けていた。

 「可愛い……美穂子」

思わず口にした一言だったが、可愛い、という単語が更に福路を高めたようだった。
しなやかな福路の体線が揺れる。
顕著な反応に応じた竹井がもう一度繰り返す。
可愛い。

 「……!あ、久、ぁ」

言葉に鳥肌を立てる福路。
乗じる竹井は福路の先端に淡く歯を立てた。
反対側の尖りには指腹で摘むように摩擦を送り、押して潰して、また摩擦を。

 「ぁっ、はぁっ……んぅっ」

敏感さを増すしかない福路に、竹井の直感は減速を弾き出した。
もう少し緩やかに触れるべきだと考え及ぶが、実現までには至らない。

 「余裕がなくったって、あの時みたいに自分を失ってるつもりはないんだけど」

手早く制服を脱いだ竹井は、福路と肌を重ねながら唇を合わせた。

 「肝心の制御がきかないわ」
 「わたしっも……、変です」

二人にとってこの光景は数時間前と同じだった。
鼓動は早く、狭くなった視界では、互いが何かに耐えるように表情を細めている。
─── が、見えているものはまるで違った。
誰とも深い仲になれなかった人気者と、誰とも深い仲になれなかった臆病者は、今や執着を認知している。
器用で大人びた竹井久、不器用に情の深い福路美穂子、二人は、誰もが知っている姿に恋をしたのだけれど、踏み入れてしばらくも経てば、壁壁壁、知らされたものは、不透明な自分ばかりだ。
事新しい感覚に馴染めなかった。苛立って嫌悪した。呆れもした。
しかし今はそれを嬉しいと思う。嬉しいと思える。
攻撃的な感情の竹井久、扇状的に乱れる福路美穂子、他人では決して描けないような姿が、より一層に愛おしい。

 「ん……!」

内側も外側も、二人でしか届かない場所へ到達しようとしていた。
竹井の手はビクビクと震えている福路の脇腹を撫でてスカートを下ろす。
そのまま湿り気溢れる下着に伸びるも ─── しかし、そこで明らかに福路の身体が強張った。

 「美穂子」

竹井は安心させるように鎖骨へ口付けた。

 「脱がせるから」

恐る恐る頷く福路。

 「は…ぃ」

剥がれた下着には透明な糸が掛かり、一つに溶け合う為の準備が進んでいることを竹井に教えた。
糸の出所に指を当てれば、糸はクプリとした濃い液体を連れ出し、溢れては福路の内股を伝う。

 「ふ、んぁっあ」

竹井は熱に濁る息で、慎重に福路の中に指を侵入させる。
浅い所で出し入れすると、福路はその透明な愛液で何本もの筋を作り出した。
竹井はゆっくりとゆっくりと指を埋めていく。
たかだか指一本に圧倒的な暖かさ。

 「……く…ぅん。………ぃ、…ぁつ…痛ッ……!!」

しかし、指が深度を求めたその時、福路から涙混じりの声があがった。

 「痛い?」
 「ごめんな、さい。だいじょうぶ、……です」

福路は申し訳なさそうに竹井を見詰めていた。
笑顔を作るも、額には克己の汗が浮かんでいる。
いくら濡れているそこであっても、未だ開かれたことのない秘部の許容はあまりに慎ましかった。

 「……んッ」

竹井は指を抜いた。
だが、何も 『痛くてもいい』 と言った彼女の覚悟を忘れた訳ではない。
止める気がないからこそ、竹井は一度指を抜いたのだ。

 「少しほぐさないとね」
 「……ぇ!」

福路の肩が不規則に揺れる。
交わる視線に慮外の色。
弛緩する声。
竹井の舌が福路の中に潜り込んでいた。
蠢く生々しい感触が福路を詰まらせ喘がせる。

 「ひッ、ひさ…ぁっ…駄目、ダメです久、そ…ッ、そんなところ!!」
 「美穂子が嫌って言えたら考えるわ」
 「そ……んっあ、あ」
 「それにね。いくら制御がきかないって言っても……好きな子に苦痛を与えて喜ぶ趣味もないの」

愛液を嚥下しながら、竹井が秘裂を開かせていく。
限界まで差し込んだ舌でグルリと掻き混ぜれば、グチュリという卑猥が鼓膜を刺した。
太腿まで垂れてしまったそれを指で広げるとまた新しい愛液が吐き出される。

 「…っん…ん、……ん!」

福路の内部が小さな痙攣を始めた。
察した竹井が舌を抜く。

 「大分ほぐれたとは思うけど───」
 「…ひ……さ?」

竹井は福路の上半身を起こし、背にした壁面に体重を掛けさせた。
正面から密着した福路の顔は竹井の肩へ預けられる。腕は抱き締めるように背中に。

 「まだ痛かったら逃げ道を作りなさい。肩を噛んでも良いし、背中を引っかいても構わないわよ」
 「そんなことをしたら……久が」
 「その辺は私も美穂子と同じよ。……分かるでしょ?」

─── 仮に傷が付いたって、嬉しく思う自分がいる。
─── どういう形であれ、傷にはならない。

 「…………分かります。とても」
 「ね」

いざという時に備え、福路はギュと竹井を抱き締めた。
逡巡を挟んで竹井の肩に口元を寄せる。

 「遠慮はいらないからね」

竹井はふっくらと濡れた秘裂に指を差し込み、福路の奥を尋ねる。
窮屈さは残るものの、幾分入り易くなったそこは、ピクと慄き竹井を迎えた。
竹井は最奥を目指して徐々に福路の中を広げていく。

 「は、……んッん、ん」

竹井が指を増やす。
ザラついた上壁を擦ると福路は両目を見開いて身体を震わせた。
福路の悦ぶ部位を攻めながら、竹井の指は、尚も、奥へ、奥へ。

 「イっ……ぁッ……」
 「ん。まだ痛い……か」

福路の面差しが切なげに顰められる。
開拓を停止した竹井がもう片方の手で気遣うように福路の髪を梳いた。

 「ひさ……」

呼吸に近い声で福路が言った。

 「……、だいじょうぶです……から」
 「美穂子……」

指を進める。
竹井の背中に軽い爪が立った。
福路が痛みに襲われているのは明白だが、竹井はもう伺うことはしない。

 「いくわよ」

長引かせるよりも、と考えた竹井は、ギリギリまで指を引く。

 「ぁ」

そして一気に福路の最奥を貫いた ───

 「─── !!」

福路の声にならない声が反響する。
竹井は根元まで埋めた指を折り曲げて福路の奥を突く。
届く場所全てを撫で尽くす動きに、痛みで身を縮めていた福路の腰が再び小さく跳ね始める。

 「ぁ…久……、ゃ、なにか……もっ」

痛みと快楽の境界に戸惑う福路。
彼女を後者に浸らせる為、竹井の空いていた指が福路の割れ目を這い上がる。
割れ目の上側ですっかり腫れ上がっていた秘芯を見付けると、過敏になっているそれを強く押し込んだ。

 「……ぁっァあ!!」
 「は、ッ……」

クプと濃い液が溢れ出し、福路の中が痙攣する。
波に耐えるようにした福路が竹井の背中に爪痕を残し、「イって」 と囁く声に震え果てた。
竹井もその時に齎された熱い締め付けに、白い火花を見たのだった。

 「美穂子」

竹井が言う。

 「久」

福路が言う。

 「大好き」
 「大好きです」

初めて執着した人。
これからもっと好きになっていく人。
上手くやれない、諦め切れない、最初で最後の人。
私達はきっと長い、長い長い付き合いになる。

二人は小さなキスをした。
甘いだけでは進めなかった二人の、苺のようなキスだった。



















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